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15しゅーねん!!

15周年記念短編です!ものっっっっっそい忙しかったけど意地で書いたのでUPします!諦めてたんだけどね!諦められなかったんだ!だって15周年を祝えないなんて嫌だったんだもん!ついに原作時間軸にはできませんでした……いつものお二人で甘々です。そのうち改稿して短編に入れときます。


15周年おめでとうFFⅨ!!!!!!!!!





『幸せの種』


ある朝、彼が手にした新聞には妙な手が加えられていた。

彼がそれに気づいたのは、何気なく次の頁を捲ろうとした時だった。不自然に紙がよれる。違和感を覚えた端の方に目を遣れば、記事があるべき場所にぽっかりと穴が空いていた。切り抜かれているのだ。縁から入ったハサミ跡は丁寧にも他の紙で糊付けしてあった。彼がそっと指でなぞって溜め息を吐く。それが誰の仕業かなど、口に出すまでもなくわかっているのだ。

何も語ろうとしない同居人は、いつもと変わらない体裁を装って洗い物をしている。それでもじっと目を凝らせば、どこか浮き足立ったような雰囲気を纏っているのは感じられた。どうせ何か良い「秘密」が書いてあったのだろう――読めなくなった裏面を気にもせず、彼はそう思うだけに留め、そっと目を逸らした。昔の彼を知る人間が見たら疑いもせず別人と思うほど、彼は彼女に寛容なのだ。

それから数日後、彼は夜中に人が動く気配を感じるようになった。気を抜いて良いのだと思ってはいても、本能的に察知してしまうのだ。それでも脱力したままでいられるのは、こっそり何かをしている気配の主が誰であるかをわかりきっているからだった。その挙動にはいかにも忍ぼうとしているといった風の努力が見え隠れしている。口許に薄ら笑みすら浮かべた彼が気にかけるのは、夜更かしのために彼女の体調に支障が出ないかということだけだった。彼は時おり自分でも疑うほど、彼女に甘いのだ。

そんな晩が七つ続いた、次の夜。

いつものように彼女の気配を感じていた彼は、それが自分の寝室に向かってくるのを察知した。予想外のことに流石に覚醒する。初めてではなかった。今まで彼女が夜半過ぎに訪れたことは幾度かあった。その理由はひどく子ども染みた――眠れない、というもの。大概は彼女が必死に不安に耐えて導いた行動であったので、彼は怒るどころか拒否したこともなかった。今日もその気があるかと言われれば、ない。しかしいつもと違うのは、彼女が足音を潜めていることだった。まるで忍び込もうとでもするように。

いつもはひどく控え目なノックをし、返事を待ってから開く扉が沈黙の中で軋む。彼女以外がやれば彼は少なからず怒りを覚えただろう。それは彼の最大の嫌悪に非常に近い行為なのだ。それでも彼が寛容を失うことはなかった。眠ったふりをしてやるだけの度量はなく、そっと近づこうとする彼女に声を掛ける。

「…………どうした。」

それはできるだけ穏便に済まそうという彼の最大限の努力だった。

「きゃあっ!」

彼女が鋭い悲鳴を上げる。彼女とて普通の人間ではない。彼が起きていることなど通常なら意識することもなく察知できたはずである。よほど気配を消すことに集中していたのだろう。

「…………何のつもりだ。」

「ご、ごめんなさっ、……ごめんなさい……っ!」

彼の言葉をどう受け取ったのか、彼女は腰を抜かすようにしゃがみ込んだ。彼の神経にとって一番気に入らない行いをしたのはわかりきっているのだろう。

「…………怒っていない。」

彼はそう言ったが、彼女に届いていないのは明白だった。震えてすらいるようだ。彼は溜め息を吐くと、仕方なく寝台を出て彼女を抱き上げた。すぐ彼女が何かを手に握っていることに気づく。

「……何を持っている?」

「…………た、……たね…………。」

「種?」

彼に低く問われ、彼女がこくりと頷く。

「あの、……幸せの、種……作って、撒いたら、幸せになれるって…………おまじない……。」

涙声の彼女の言葉は最後だけ少し遠慮がちだった。彼がそういったものに価値を見出だしていないことはわかっているのだろう。

「…………作って……大切な人に…………こっそり、枕元に……。」

彼女がぎゅっと抱きつく。並べられた短い言葉から、彼は器用にも大体の事情を察した。新聞の切り抜き。彼女がここ数日、一人で夜を更かしていた理由。それはこの「秘密」のためだったのだ。

「……私、……渡したくて……叶えたくて……。……それで……だから……読んでもらって…………作ったんです……。」

彼に迷惑を掛けたと感じているのか、彼女は縮こまるように彼に抱きつく力を強くした。

「…………そうか。」

彼が優しくその背を撫でてやる。彼女なりに必死であったことは十分に伝わったのだ。たとえ考え方が理解はできなくても気持ちは理解できる――それは彼が彼女と出会って学んだことの一つだった。そして彼女に純心なまでに幸せを願われて、彼とて嬉しくないわけではない。

「…………こっそり、じゃなければ意味はないのか?」

「え?」

「……おまえさえ良ければ、受け取ろう。見せてくれないか。」

促され、少女がおずおずと手を開く。コロンと小さな掌を転げて彼の手に入ったのは、金平糖のような形をした乳白色の石だった。

「ずいぶんと、可愛らしいな。」

「……種、ですから。」

彼女が初めて微笑む。彼と同じ物を見られたのが嬉しかったのだろう。

「あの、サラマンダー様。星の明かりを……くださいませんか。」

一呼吸置くと、彼女は静かにそう言った。彼が彼女を抱いたまま理由を聞かずに窓へ向かう。

「当ててみて。」

垂れ布をたくし上げると、彼女はそっと呪文のように彼の耳元で囁いた。彼が手を星影の下に晒す。すると次の瞬間、石は目映く光って千々の煌めきになった。まるで星屑が散るかのごとく、空中で輝きながら舞い降りてくる。

「種、だから、芽吹くそうです。……うまくいって良かった。」

仕掛けた魔術が成功して安堵したのだろう。彼女が小さく笑う。彼はいくらか呆気に取られた表情をしていた。彼女がやることは、時に彼が考えもしない次元を含むのだ。

「大切な人への、贈り物。……いつも、ありがとうございます。」

彼女が小さな手で逞しい身体に抱きつく。

「ありがとう。」

目を俯せるように微笑んだ彼は、答えるように抱き締めてキスをした。

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